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東京地方裁判所 平成2年(ワ)15990号 判決 1991年11月28日

原告 浅香信蔵

右訴訟代理人弁護士 田中英雄

同 石井正行

被告 丸正自動車株式会社

右代表者代表取締役 樽澤光昭

右訴訟代理人弁護士 岩井國立

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、平成四年一月九日限り、別紙物件目録(二)記載の工作物(以下「本件工作物」という。)を収去して同物件目録(一)記載の土地部分(以下「本件駐車場部分」という。)を明け渡せ。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、被告に対し、昭和四七年一月一〇日、本件駐車場部分を次のとおりの約定で賃貸しした(以下「本件賃貸借契約」という。)。

使用目的 小型自動車駐車場

賃貸期間 昭和四七年一月一〇日から二〇年間

賃料 一か月三・三平方メートル当たり四〇〇円

特約 配車等を行うために必要なプレハブの仮事務所、仮眠所の築造を認める。

なお、原告は、被告に対し、昭和六二年、本件駐車場部分を含む別紙物件目録(一)記載の一から三までの土地全体(以下「本件土地全体」という。)を一時使用目的で賃貸しし、右一時使用目的の賃貸借契約は合意解約された等と主張して、本件工作物の収去と本件土地全体の明渡しを求める訴訟(東京地裁昭和六二年(ワ)第六八八〇号)を提起したところ、平成元年一一月二七日、その控訴審(東京高裁昭和六三年(ネ)第三七五八号)において、本件土地全体のうち、被告の事務所が存する土地部分(以下「本件敷地部分」という。)については、建物所有を目的とする一時使用のためではない賃貸借契約が成立する一方、本件駐車場部分については、建物所有を目的とした賃貸借契約が成立したものと推認することはできないとした上、本件駐車場部分の存続期間は民法六〇四条により二〇年である旨の判決が言い渡され、同判決は確定したので、原告は、右確定判決の判示を前提として、本件賃貸借契約の期間を二〇年として主張するものである。

2  被告は、本件駐車場部分に本件工作物を所有し、本件駐車場部分を占有している。

3  本件賃貸借契約は、平成四年一月九日の経過をもって終了する。

4  よって、原告は、被告に対し、本件賃貸借契約の終了による原状回復請求権に基づき、本件工作物の収去と本件駐車場部分の明渡しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  請求原因3の事実は否認する。

3  請求原因4は争う。

三  抗弁

本件駐車場部分に関する本件賃貸借契約は、建物所有を目的とするものではなく、存続期間を二〇年間とするものではあるが、それは、本件敷地部分に関する建物所有を目的とし存続期間を三〇年間とする賃貸借契約と、利用面において不可分一体のものである。したがって、本件賃貸借契約の締結に当たっても、当事者間においては、右のような利用形態に合致した趣旨の合意が成立したものとみるべきであるから、その存続期間については、原、被告間において、本件敷地部分に関する賃貸借契約が存続する限り、その期間内は、本件賃貸借契約を存続させるとの合意があるものと考えるべきである。

そうすると、本件敷地部分に関する賃貸借契約の存続期間は、平成一四年一月九日までであるから、本件賃貸借契約は、少なくともその間は、継続するというべきである。

四  抗弁に対する認否及び原告の主張

抗弁事実は否認する。

原告が前記高裁判決に必ずしも承服していないことは前述のとおりであるが、仮に、右高裁判決の解釈を容認するとしても、それは、被告の本件駐車場部分の利用権の保護を意図した例外的なものであり、当事者の合意及び当事者が意図した契約本来の趣旨とは異なるものであるから、必要最小限度において妥当性を有すると理解されなければならない。したがって、本件敷地部分に関する賃貸借契約の存在をもって、本件賃貸借契約が建物所有を目的とするものに変更されるべきものでないことはもとより、その存続期間も、本件敷地部分に関する賃貸借契約の存続期間と同じに延長されるなどと解することは、到底許されるべきではない。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1及び2の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、抗弁について判断する。

1  《証拠省略》によれば、次のとおりの事実が認められる。

(一)  被告は、昭和二六年に一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー営業)を目的として設立され、現在本件土地全体に本店営業所を置き、保有車両一〇九台、乗務員二二一人、職員一九人を擁するタクシー会社である。

(二)  被告の業務の性質上、営業用車両の保管場所の確保は不可欠の重要事項であるところ、本件賃貸借契約及び本件敷地部分についての賃貸借契約は、昭和四七年一月一〇日、本件土地全体を営業用車両の保管場所、会社事務所等として利用することを目的として締結された。

(三)  被告は、右各貸借契約の締結後、約旨に従って本件土地全体を整地し、水道及び電話線の引込み工事を行った上、アスファルト舗装を施し、営業用事務所、乗務員用仮眠室等の木造二階建ての建物を建てて使用を始めた。

その後、被告は、原告の承諾のもとに、昭和五一年七月ころに井戸の開さく、同五二年九月ころにガソリンスタンド設置、同五三年一二月ころに風呂、トイレ及び油倉新設、同五四年四月ころに事務所及び仮眠室の増改築、同五九年五月ころにフェンス及び門柱の改築等の各工事を重ねた。

(四)  被告は、右各貸借契約の当初から毎月自ら被告の事務所に賃料の取立てに赴いており、右の工事期間中に賃料の取立てに来合わせたこともあったが、その際、右工事に反対したり、そのことが右各貸借契約の趣旨との関係で問題になるような意向を示したりしたことはなかった。

(五)  右各貸借契約は、一体のものとして毎年一通の公正証書を書き換えて更新の形態をとってきているところ、その表題が、当初の「土地賃貸借契約公正証書」から、昭和五五年度以降「土地一時使用賃貸借契約公正証書」と変わったものの、右表題のいかんにかかわらず、契約当初から原告は被告に対し引き続いて貸すという、従前の契約内容をそのことによって変更する特段の合意がされたわけでもなかった。

(六)  右各貸借契約の締結に当たって、賃料以外の保証金等の授受はなかったが、賃料については、一年ごとに見直すのが賃貸借契約を長続きさせる上で肝要だとの原告の要請で、毎年のように増額改定の要求がされ、被告は、この間昭和四九年から約一〇年間にわたり会社整理決定を得て再建に追われる状況に陥るなど経済的に苦境にあったが、原告の増額要求に応じてきた。

なお、賃料は、原告の要求により表と裏に分けて支払われてきており、このため被告は、裏分については税務申告上これを賃料としてではなく、別の適当な費用に紛れ込ませて計上することを余儀なくされていた。

(七)  右各貸借契約の締結から約一三年を経過した昭和六〇年一二月に至り、原告は、被告に対し、東武線竹の塚駅を挟んで本件土地全体と反対側に位置する原告の居宅の方位が悪く、妻の病気療養に良くないので、本件土地全体に原告の居宅を建てる必要があるなどとして、突然本件土地全体の明渡しを求め、主として代替地の確保の困難性等を理由にこれを拒む被告との間で、種々の折衝が行われ、その結果として、原、被告間で、同六一年一月一〇日、代替地の確保を条件とする右各貸借契約の期間を同日から同年一〇月三一日までとする公正証書が作成された。

《証拠判断省略》

2  以上に認定した事実によれば、本件敷地部分については、建物所有を目的とする、一時使用のためではない賃貸借契約が締結されたものと解するのが相当であるから、その賃貸借契約の存続期間は、借地法二条により、昭和四七年一月一〇日から三〇年間継続するものというべきである。

また、本件駐車場部分についての本件賃貸借契約は、原、被告において自認しているように建物所有を目的とするものではないものの、被告の本件土地全体の利用形態が、タクシー営業のための事務所、車庫、駐車場等としてのものであって、事務所等が存在する本件敷地部分と車庫、駐車場等が存在する本件駐車場部分が、利用面においては不可分一体のものであることからすれば、原、被告において右各貸借契約を締結するに当たっては、右のような利用形態に合致した趣旨の合意が成立したものとみるべきであるから、本件賃貸借契約の期間については、本件敷地部分についての賃貸借契約の期間が存続する限り、その期間内は、本件賃貸借契約も継続させるとの合意があったものと認めるのが相当である。

そうすると、本件賃貸借契約は、民法六〇四条により、昭和四七年一月一〇日から二〇年間を経過した平成四年一月九日の経過をもって一応その期間が満了するものの、右合意により、少なくとも本件敷地部分についての賃貸借契約の期間が満了する同一四年一月九日までは継続するものというべきであるから、被告の抗弁に理由がある。原告のこの点に関する主張は採用できない。

三  以上によれば、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく失当といわざるを得ないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 秋山壽延)

<以下省略>

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